「お前はどうしたいの?」リクルートで上司に“詰められた”話

リクルートで上司に詰められた話
Photo by turbo1019turbopd.com

リクルートに転職して学んだこと

SNSやメディアの取材では自分の成功体験について話をすることが多いが、過去を振り返ると失敗経験のほうが圧倒的に多い。

特に20代の頃は「仕事で失敗したくない、すごい実績だけ上げてキャリアをつくっていきたい」と考えていたが、今の自分の経験を振り返ると「失敗しなければ得られないこと」のほうが多かったように思う。

僕のキャリアの中でも、特にリクルートは失敗を通じた学びが多くあった会社の1つだ。失敗の本質をとことん追求してくれるだけでなく、仕事の意味を考えさせてくれる上司に恵まれたのも大きい。

今回はリクルートで経験した印象的なエピソードを書いてみようと思う。

誰が言ったかではなく、何を言ったか

リクルートに転職したばかりのとき、上司に声をかけられた。

上司「ごめん、少しだけ時間もらっていい?」

僕はリクルートの新卒事業本部に配属され、就職ナビサイト「リクナビ」の登録会員数を増やすミッションを任されていた。

上司「転職したばかりのキミからの目線で、今のチームにダメ出ししてくれないかな。見てて思うことない?」

僕は前職でも同じような仕事をしており、競合であったリクルートのことを分析していたため、思うことはいくつかあった。リクルートに染まっていない今なら、まだ外の視点を活かして改善点を指摘できる。

僕「ダメな部分がないわけではないですけど、入社したばかりの僕がいきなり否定するのは早い気がします。入社して早々にチームの雰囲気を悪くしても申し訳ないですし、僕もまだ社内事情でわからない点も多いので、もう少し様子見てからでもいいですか?」

僕は、いきなりチームにダメ出しをすることに抵抗があった。入社したての人間に、これまでやってきたことを否定されて気分がいい人はいない。そんなことを返答をした僕に、上司はこう言った。

上司「それはキミが嫌われたくないだけじゃない?残念だけど、僕は自分の見え方を気にする人に仕事を任せようとは思わない。向き合うべきは自分ではなく事業だよ。」

上司「自分を良く見せるために組織や仕事があるわけじゃない。数字を出すことに向き合ってほしい。誰が言ったかより、何を言ったかが大事なんだよ。

僕がこれまで経験してきた企業の多くは、結果を出した人の意見が反映されるカルチャーがあり、それが当たり前だと思っていた。まだ数字を出せてないどころか、右も左もわからない人間が意見を言うなんてとんでもない、と自分の中で勝手にブレーキを踏んでいた。

でもよく考えてみると、自分の見え方や立場を気にして意見しないことは結果として誰も得をしないし、周りの目を気にして出すべき意見を言えない状態も健全ではない。立場に関係なく、成果と向き合う人が評価される環境は新鮮だった。

後に、この上司は「入社初日だろうと10年目だろうと、組織を伸ばすために必要な意見は出すべきだ。それが結果として自分のためにも組織のためにもなる。そういう人間が組織を成長させられるんだ。」とも教えてくれた。

自分自身と向き合うのではなく、チームや組織として成果を上げるためにはどうすべきか?という視点を持つことは、自分の価値を上げる上でとても大切な視点だと学んだきっかけになった。

自分の成長よりチームの成果

リクルートに転職後、目標未達の日々が続いた。

毎週月曜の進捗報告会議は地獄だった。未達である理由と次のアクションについて述べさせられるのだが、僕はあまりに詰められすぎて「がんばります」という意気込みしか発表できないポンコツ社員になっていた。

もうすぐ四半期が終わるというタイミングで事件は起きた。

上司「ちょっと聞くけど、先週と数字変わってないのは、なんでなの?」

数字が良い時は何も感じないが、数字が悪い時は急激に酸素が薄くなったように感じる。このときもそうだった。

僕「すいません、先週は競合のA社が……あとB社も先方に提案資料を出していたんですが、うちの社内チェックに時間がかかったことで出遅れてしまって……」

僕「先方の担当者は待ってくれるとのことだったんですが……結果的に他社の提案が採用されてしまって……」

数字が出ている以上、言い逃れはできない。

こうなった以上「いかに自分が悪くないか」という点を主張し「それなら仕方ない!次がんばろう!」というコメントがもらえるように言い訳をするしかない。しかし、世の中そんなに甘くない。

上司「わかった。キミは来週から報告しなくていい。社内チェックが遅くてできませんでした、今月こそ成果出ますって、いつまで同じこと言ってるの?」

上司「他責や気合しか出てこないなら、今後のクライアント業務は外すよ。報告を聞いている全員の時間をムダにするだけだから。」

さすがにショックだった。数字が出せていないのは確かだが、任された仕事である以上、自分にやらせてほしい。僕は「この仕事を通じて成長したい」ということを必死に伝えた。

しかし、それも火の玉ストレートになって返ってきた。

上司「あのね、自分の成長じゃなくて、組織の成果に向き合ってくれないかな?自分の成長とか保身が中心で、いつまでもチームの成果に貢献できないようだと、仕事を任せられないんだよ。」

上司「あなたの成長のためにチームがあるわけじゃない。チームで成果を出すためにやるべきことを考えてほしい。何度も言うけど、自分の成長よりチームの成果が先なんだよ。自分だけ良ければいいという人に仕事は渡せないよ。」

僕は、ようやくこれまでの自分の行動を恥じた。

上司に怒られたくない、数字が悪い自分を周りに評価されたくない、個人の成績が良い時だけ見てほしい。ずっとそんなことを考えていた。僕は最初から、チームの成果より自分の保身や成長を優先していたのだ。

どんな組織でもそうだが、評価されるのは個人の成長を意識している人ではなく、組織を成長させられる人材だ。良い時も悪い時も、自分の状況を周りに伝え、どうすべきかを考えながら行動できる人間に仕事と人は集まってくる。

僕はこの経験から考えを変えるようにした。例えどんなに数字が悪くても現況を周りに伝え、成果を上げるためにもらえる意見をもらう。

数字が出せない自分が恥ずかしいと思う前に、数字を出すためにできることを考えるようにした。

こうした変化を通じて、自分に対する周りの評価も少しずつ変わってきた。仕事は自分や周りの目と向き合うより、数字と向き合うことが大切だ。結果としてそれが自分の成長につながる。今でもこの考えを大切に仕事をしている。

自分の“意志”で仕事をする

あるとき、ずっとリクナビをメインに使っていたクライアントから「他社に乗り換えたい」というメールが入った。

上司に報告したところ「すぐに連絡して行ってきなさい。」との指令が下り、足を運んだ。あいにく上司は都合がつかず、僕が一人で行くことになった。

着いて早々に担当者へ理由を聞いてみると「競合他社の子がよく顔を出してくれるから、うちの部長が気に入ってしまってね……ごめんね」という調子だった。

アポを終えて会社に戻り、この件を上司に報告した。「競合他社の営業がよく顔を出しているらしく、そちらを気に入ってしまったみたいです」とありのままに伝えた。

すると、上司は激怒した。

上司「それだけ聞いて帰ってきたの?まさか、行ってこいって言われたから行っただけなの?そういうところが切られる本当の理由なんじゃないかな。足を運ぶだけで案件取れるなら、誰でもできるんじゃない?」

その通りです、と思いながらも「だったらアポに同行して助けてくれよ……」と思ったりもした。あまりにいろいろ言われたため「じゃあ、どうしたらいいんですか?」と上司に答えを求めた。

しかし、これもまた1,000倍返しで戻ってきた。

上司「キミには、自分の意志はないの?ただ言われたことだけやって、いざとなったらどうしたらいいですか?って、それ仕事していて楽しい?自分の意志がない仕事なんて、やってて楽しくないでしょ?」

上司「どうすべきかを現場で考えるのが仕事なんだ。相手の立場に立って、何に価値を感じてもらえるかを、自分の頭を使って考えてみて。」

また、こうも教えてくれた。

上司「仕事はね、こうしてもいいですか?って許可を求める行動をするくらいでいいんだよ。その責任を取るために上司がいるんだ。答えを指示するために私がいるんじゃない。」

ごもっともだった。僕のやっていることは上司や顧客に言われたことを共有しているだけで、自分の考えは一切ない。無意識的に「言われたことだけやればいい」という姿勢を持って仕事をしていた。

その日から自分の行動を改め、クライアントのことを考えて行動するようにした。

毎日足を運ぶという目先の行動だけでなく、クライアントの課題は何なのか?を考えて提案し続けた結果、無事にうちを選んでもらうことができた。

リクルートで言う「圧倒的当事者意識」は、自分の意思を持って仕事をすることで生まれてくるものなのだと思う。仕事との向き合い方で、成果は大きく変わることを実感した。

最近では「お前はどうしたいの?」と聞くことが「ウィルハラ(willハラスメント)」と言われることもあるが、個人的には当事者意識を持つ良いきっかけになったと思う。

もちろん僕自身も、何を聞いても「お前はどうしたいの?」と答える上司に「指示を出せよ」と思ったことは何度もあるが、言われたことだけをやる仕事に成果はついてこない、ということを学ぶことができた。

もし、今の仕事にモヤモヤしていたら、目の前の仕事に対する意識を変えてみてほしい。

リクルートでは本当にいろんなことを学んだが、今回は自分の中で特に印象深かった3つのエピソードを書いてみた。

ちなみにリクルート社内で使われている『リクルート用語』についても記事に書いているので読んでみてください。

また、リクルートで学んだことは別記事『どの会社でも活躍できる人の共通点とは』にも書いているので、もしよかったらこちらも読んでみてほしい。

Twitterでも発信しているので、フォローしてもらえたら嬉しいです。

コラムについて

ここでは筆者であるmotoが日頃思っていることを書いています。

主に転職やキャリアについて書いてます。更新は不定期ですが、僕なりの転職の考え方に関する内容を発信していきます。

本コラムに関するご意見・ご感想、転職に関する質問についても受け付けますので、 @moto_recruit や下記のフォームからお送りください。転職に関する質問には、コラムの最後でお答えしていきます。

転職活動について情報収集されている方は、転職サイト転職エージェントの記事もチェックしてみてください。

    執筆者・監修者のmotoについて

    moto
    moto

    戸塚俊介。1987年長野県生まれ。地方ホームセンターやリクルート、ベンチャー企業など6回の転職を経験後、転職メディアを上場企業へ売却。現在は「転職アンテナ」を運営するmoto株式会社およびHIRED株式会社(有料職業紹介事業許可番号:13-ユ-313037)の代表取締役。著書は『転職と副業のかけ算』(扶桑社)、『WORK』(日経BP)、YouTubeチャンネルは『motoの転職チャンネル』がある。

    運営者情報